パスワールド ホーム展示会等のイベント記録アーティスト一覧アートパス ブログパスワールドについて展示会等のイベント記録

岡嶋多紀

Taki Okajima

岡嶋多紀展

2002年10月11日〜29日

織物から和紙へ、木綿の可能性
たき織り、木綿和紙、あかり
特殊な立体漉きの手法によるオブジェ

 


木綿和紙

布から紙へ
木綿往生の理念は、単なる再生(いわゆる再利用)でなく、木綿を新しい形で昇華させることだと思った私は、残糸や残布を花に昇華させる際にできた、さらに細かな切りくずまでも完全に消化できないかと、日夜考えるようになりました。 ある日、この繊維を和紙に漉くときに入れてみてはどうかと思いつきました。そして、奈良の正倉院に保存されている麻を漉き込んだ麻紙のことを知り、さらにその意を強くしました。しかし、紙を漉くことには全くの素人でしたから、思いついてみたものの、実際にどのようにしたらよいのかがわかるまでが大変でした。それでも根気よく、楮の繊維に木綿の繊維を混ぜ合わせ、一枚一枚紙を漉いていったのです。白い楮と短い綿に戻った木綿…二つの植物の繊維は、お互い水の中で大きく夢を育むように絡み合い、そして融合していきました。そのプロセスの中で、綿(わた)から生まれ、育った木綿が、綿(わた)に帰っただけでなく、和紙の中に新たな命を吹き込んでくれました。創造的再生がおこなわれたのです。まるでキャンパスに描かれた線のように、さまざまな表情を持った「木綿和紙」が誕生しました。

平面から立体へ
一枚一枚漉いた和紙を見ているうちに、また新たなひらめきがありました。この和紙を立体にできないだろうか、と思ったのです。それも、できることなら、継ぎ目のないものにしたい― また未経験のことへの挑戦が始まりました。そして、和紙を漉く工程を立体化することで、伝統的な手漉き和紙製法の域を越えた「立体木綿和紙」を作り出すことができました。和紙と木綿のやさしさ、柔らかさに加えられた手作りのあたたかさ― 出来上がった「立体木綿和紙」は、その中に光源を入れることにより、優しい癒しの光を放つ明かりになりました。

木綿という素材に付き合えば付き合うほど、木綿の持つ力を知ることになりました。
そして、その力を、伝統的な手作りのわざを生かしながらも、今までのものを越えた形とデザインで木綿の創造的再生ができたのです。
今後も木綿を通してオリジナルの作品を展開していきたいと思います。

岡嶋 多紀

 

木綿と生きる 岡嶋多紀展 〜 織物から和紙へ、木綿の可能性 〜

岡嶋多紀さんは、以前アパレルメーカーを設立し、デザインや商品企画開発の仕事をしていた。当時から木綿の素材にはこだわりを持っていた。その後デザイナーとしての仕事を退き、アトリエの整理を始めたところ、膨大な量の残布が眠っていた。これらを素材別に仕分けしてみて、あらためて「木綿」を再認識した。そしてこの屑となった木綿の残布を糸に戻そうと考えた。裂織りを始めるきっかけだった。試行錯誤を重ねた末、木綿起毛の織物を完成させ「たき織り」と命名した。これが岡嶋多紀オリジナルの織物である。

「たき織」は、木綿の布地を一本のバイヤステープにし、横糸に織りこんでいく。そして、様々な工程を経てそれは心地よい「感触布」となる。手の温もりを感じさせる優しい木綿の感触である。
しかし、この「たき織」からもまた残布が出る。これで木綿の花の壁掛けを作った。屑として捨てられる布に再び命を与えることができた。
岡嶋さんは「木綿往生」という言葉をよく使う。柳宗悦らと民芸運動に関わった元倉敷民芸館館長・外村吉之介の言葉である。「木綿は人に優しく最後は雑巾(浄巾)として仕え、役割を終わる。人の生き方そのものである。」

岡嶋さんは日本国内はもとより、南米、アジア、ヨーロパ各地を、木綿に魅せられ訪れている。マスメディアの進歩で世界中の情報を居ながらにして得ることができるが、実際にその地を訪れて、人と出会い、その地に育まれた伝統や文化を吸収したいと考えている。アンデス山麓の広大な綿花畑にたたずみ、真っ白い繊維が溢れたコットンボールを眺めた時のことを、「ふわっと柔らかくて温かく、アンデスの空気が体の中を走るようだ」と振り返る。それが「たき織り」の原点でもあったと述べている。
人々は風土や時代背景によって生活の中から多くの工芸品を生み出してきた。スウェーデンを訪れた時は、この国の織物工芸は単に生活用品というだけではなく、暮らしの中に美や安らぎを求め、長い冬を快適に過ごすという工夫がなされていると感じた。
民衆の工芸を「民芸」と言った柳宗悦は、生活用具の中に美しさを発見する。イギリスのウイリアム・モリスが起こしたアーツ&クラフツ運動は、機械化による大量生産に歯止めをかけようと伝統技の手仕事に芸術性を見出し、ヨーロッパの美術工芸に大きな影響を与えた。工芸と美術との捉え方に相違はあるが、その精神は日本の民芸運動にも影響を及ぼしている。
民芸では「暮らしの中から生まれた美、健康の美、用と美、伝統の美」などの言葉を使っている。これらもまた、岡嶋さんがよく口にする言葉である。

裂織りには、使い古した布を細く紐状に裂き、撚りをかけて緯糸(ヨコ糸)に使い、経糸(タテ糸)には麻や木綿糸などが使われていた。厚地で丈夫で長持ち、仕事着に適している。近年粗末に扱われていた古い野良着が、貴重な織物文化の遺産と認識されたという例もあるように、裂織りは伝統の織物文化である。江戸中期、北前船の進出により、綿栽培に向かない寒冷地方にも、木綿布が流通するようになった。しかし布はとても貴重なもので、人々は着古した木綿布を裂織りにして最後まで大切に使い切った。
屑は、もう捨ててもいいわけだが私は捨てられない。この素材を分解することによってまだ生かせるのではないかと考える。生かし役立てるという精神は、裂織りの精神でもあると言う。この木綿屑は繊維に戻し、楮(こうぞ)と絡み合い美しい木綿和紙に生まれ変わった。綿も楮も植物、プラスチックの再生とは違う。木綿だからできる再生であると、岡嶋さんは強調する。当時の人々がいかに木綿を大切に扱ってきたかを思うと「捨てられない」、だからここまできてしまったと、アトリエの冷蔵庫から、分解し混ぜ合わせた原料を取り出した。

岡嶋さんは、木綿や和紙のルーツを探しによく地方へ行く。そして必ず何かに感動し作品に反映している。そこの地域に入って同時に息を吸うことによって、感動し同じ考え方がわかる。和紙も織りも伝統のもの、原点に戻り、なぜそこに発達したかを探っていくと、生活の中から生まれた美しい伝統文化をもっと見直そうという気持ちがわいてくる。大宝2年(702年)の戸籍用紙が正倉院に現存する。これは美濃手漉き和紙である。岡嶋さんは、美濃へも2回訪れている。作品展では、その土地の伝統をとても意識するという。佐渡は裂織りのふるさと、埼玉小川町は和紙の里だった。パリの場合は、今までファッション情報を得ていた場所。オリジナルの布地を持って行けたことは、自分にとって意義あることだった。日本の木綿とフランスの残り糸の融合は、友好でもあった。

岡嶋さんは、繭(まゆ)の形をした木綿和紙のオブジェをいくつも作っている。自身はこれを立体漉きと呼ぶ。木綿和紙を立体にできないものか、骨組みも継ぎ目もない一枚の立体木綿和紙。またあらたな挑戦が始まり、漉く工程を立体化するという、従来の手漉き法の観念を打ち破ったアイデアである。この繭のオブジェは、明かりと共に見違えるような色彩に変化する。蚕の繭(絹)は真綿(まわた)の原料でもある。古く奈良時代は綿(わた)といえばこの真綿のことで、後に木綿わたが登場したそうだ。岡嶋さんはあえて、木綿で繭を作ろうと考えたのかもしれない。
和紙の「用と美」については、欧米でも人気があるが、この木綿和紙の明かりのオブジェは、パリでも好評だった。

時代の移り変わりと共に、われわれの生活スタイルも変わってきた。しかし、「木綿往生」の精神は大切に、雑巾で終わらせることなく、可能な限り、美しく再生させていきたい。そして、生活の中に美を求めていきたいと考えている。
1994年、月刊誌染色αの掲載記事の中で、岡嶋さんは次のように述べている。・・・「木綿往生」という字を初めて目にした時、なにか心に突きささるものがあった。「木綿と共に生きよう」この言葉を大切に日々を過ごすようになった ・・・

* 協力 藤井国勝さん・中村淳子さん。酒店のオーナー藤井さんは「捨てられない」と、ある銘柄のお酒のラベルをコレクションしている。このラベルの裏に、彫刻家中村淳子さんが心を込めて墨で描いてみた。岡嶋さんははこれも展示したいと考えた。ちなみにこのラベルは、健康で三十世紀に残る紙を目指す新潟門出和紙。
ギャラリーパスワールド 記


展覧会
1989 個展 玉川高島屋(東京)
1989 個展 日本橋高島屋(東京)
1990〜92 手仕事と伝統の全国もめん染色展
1991〜93 個展 ギャラリー四季(東京)
1992 '92「この人この作品」展 京都文化博物館
1993 個展 ノアアートスペース代官山(東京)
個展 ふじたアート(京都)
1994 個展 ギャラリーイグレック(東京)
1995 個展 ギャラリー四季(東京)
東京手工芸連合会展 金賞
1996 アート未来展 工芸部新人賞(東京)
1996〜98 個展 コートギャラリー国立(東京)
1996 東京手工芸連合会展 読売新聞社賞
1997 アート未来展 アート未来準大賞(東京)
関東平和美術展(東京)
世田谷平和美術展 世田谷美術館(東京)
1998 個展 埼玉伝統工芸会館
1999 個展 ギャラリーポイントJAL(パリ)
個展 エスモード・パリ(パリ)
2001 個展 「たき織 佐渡を歩く」新潟館ネスパス(東京)
個展 大佐渡開発総合センター(新潟)
個展 ギャラリーブロッケン(東京)

演劇
2001 千賀ゆう子企画「オレスティア」の衣装と美術を担当

文献
1989 月刊染色αNo.96 「バイヤステープを使った起毛織物・裂織の新タイプ・たき織」
1994 月刊染色αNo.157「脚光あびる木綿起毛裂織物・裂織が現代ファッションを変える」
2000 季刊銀花No.121 「捨てない・再生の美に挑む人たち・裂織りの新しい風」
2002 月刊染色No.253 「捨てられない布・木綿」

その他
1992 第33回全国発明コンクール「たき織」激励賞
裂織り織物「たき織」の考案を特許庁に登録(1919416号)
商標登録(2528210号)



Copyright (C) 2002 PAZWorld Co., Ltd. All Rights Reserved.